セキュリティ人材とは、情報技術の急速な進化とともに、その重要性が日増しに高まっている専門職です。サイバーセキュリティの専門家は、ただ技術を駆使するだけでなく、組織の安全を守るための重要な任務を担っています。この記事では、セキュリティ分野で活躍する人材の役割、求められるスキルセット、そして現代が直面する人材不足問題とその対策について深掘りします。
セキュリティ人材の概要
セキュリティ人材とは、情報セキュリティの分野で活動する専門家や技術者を指します。彼らは組織の情報システムやネットワークを保護し、サイバー攻撃、データ侵害、その他のセキュリティ脅威から防御するための技術的、戦略的なスキルを持っています。セキュリティ人材には、サイバーセキュリティアナリスト、セキュリティエンジニア、セキュリティコンサルタント、セキュリティマネージャー、インシデントレスポンダーなど、様々な役割があります。これらの専門家は、脅威の検出と評価、リスク管理、セキュリティポリシーの策定と実施、インシデント対応など、組織のセキュリティ体制を強化する多岐にわたる業務を行います。
現在のセキュリティ人材の市場価値
下記10年間でセキュリティ人材の市場価値は顕著に増加しています。この変動にはいくつかの重要な要因があります。
サイバー攻撃の増加と複雑化
サイバー攻撃は年々増加し、その手法も高度化しています。企業や政府機関は、個人情報、金融情報、知的財産などの価値あるデータを保護するために、より専門的なセキュリティ人材を必要としています。
規制とコンプライアンスの強化
GDPR(一般データ保護規則)やCCPA(カリフォルニア消費者プライバシー法)など、データプライバシーとセキュリティに関する法規則が強化されました。これにより、規則遵守を確実にするためのセキュリティ専門家の需要が高まっています。
デジタルトランスフォーメーション
多くの企業がデジタル化を進める中で、クラウドサービスの利用拡大やリモートワークの普及などが見られます。これらの変化はセキュリティの懸念を増大させ、セキュリティ人材への需要を引き上げています。
高度な技術の登場
AIや機械学習のような新しい技術がセキュリティ分野にも応用されています。これらの技術を扱えるセキュリティ人材への需要が高まっています。
セキュリティ人材の必要スキル、求められる人物像
セキュリティ人材に必要なスキルは多岐にわたります。主要なものを、以下の一覧表にまとめました。
テクニカルスキル | ネットワークセキュリティ | ファイアウォール、侵入検知システム、ネットワークスキャニング、暗号化技術などの理解と適用が含まれます。 |
システムセキュリティ | オペレーティングシステムやアプリケーションのセキュリティ設定、脆弱性評価、パッチ管理などが含まれます。 | |
アプリケーションセキュリティ | セキュアなコーディング技術、脆弱性評価、ソフトウェア開発ライフサイクル内でのセキュリティの統合が含まれます。 | |
アナリティカルスキル | 脅威分析 | 新たな脅威や脆弱性を特定し、その影響を評価する能力が求められます。 |
インシデント対応 | セキュリティ侵害やインシデント発生時に適切な対応と解決策を策定する能力が含まれます。 | |
知識スキル | セキュリティ規格とポリシー | ISO 27001、NIST、PCI DSSなどのセキュリティ関連の標準やベストプラクティスへの理解が含まれます。 |
法的および規制要件 | データ保護法、コンプライアンス要件など、関連する法律や規制への理解が求められます。 | |
ソフトスキル | コミュニケーションスキル | 技術的な内容を非専門家にも理解しやすく伝える能力や、チーム内外の効果的なコミュニケーションが含まれます。 |
問題解決スキル | 複雑なセキュリティ問題に対して効果的な解決策を見つける能力が含まれます。 | |
チームワーク | 異なるバックグラウンドを持つチームメンバーと協力し、共通の目標に向かって努力する能力が含まれます。 |
また、専門的スキルだけなく、下記のような人物像を持ち合わせている人がセキュリティ人材としての需要が高いです。
- 解析的思考力
複雑な問題を効率的に解析し、論理的に考えて解決策を導き出す能力が求められます。セキュリティ関連の問題はしばしば非情に複雑であり、緻密な分析が必要です。 - 継続的学習意欲
セキュリティ分野は日々進化しており、新しい脅威や技術が絶えず出現します。この迅速な変化に適応し続けるためには、継続的に学習し、自己の知識を更新し続ける意欲が必要です。 - 高い倫理観と責任感
セキュリティ人材は機密情報を扱うことが多く、その取り扱いには高い倫理観と強い責任感が求められます。信頼性とプロフェッショナリズムは、この職種にとって不可欠な特質です。 - コミュニケーション能力
技術的な詳細を理解できない人々にも、セキュリティのリスクや必要な措置を効果的に伝えられるコミュニケーション能力は、組織内での協力と理解を促進する上で重要です。 - 積極的な姿勢
単に問題が発生した後に対応するのではなく、リスクを事前に特定し、未然に防ぐための措置を講じる能力が、セキュリティ人材には求められます。これは、先見の明を持って積極的に行動することを意味します。
企業がやるべきセキュリティ業務
企業に求められるセキュリティ業務は、システムのみならず、物理的なセキュリティ対策から社内の教育や意識付けまで、多岐にわたります。全体を領域ごとに分けると、下記になります。
リスク評価と管理 | 組織が直面するセキュリティリスクを識別、評価、そして優先順位付けします。 |
リスクに基づいてセキュリティ戦略を定義し、リスク軽減策を実施します。 | |
ポリシーと手順の策定 | セキュリティポリシーと手順書を策定し、従業員がこれに従うようにします。 |
セキュリティに関するベストプラクティスと規準を定め、遵守します。 | |
技術的セキュリティ対策 | ファイアウォール、侵入検知システム、暗号化などのセキュリティ技術を導入します。 |
エンドポイント保護、ネットワークセキュリティ、アプリケーションのセキュリティ対策を強化します。 | |
物理的セキュリティ対策 | 施設へのアクセス制御、監視カメラの設置など、物理的なセキュリティ対策を講じます。 |
教育と意識向上 | セキュリティ意識向上トレーニングを提供し、従業員にセキュリティの重要性を理解させます。 |
定期的にセキュリティ教育を行い、最新の脅威や対策に関する情報を共有します。 | |
監視とインシデント対応 | セキュリティ監視ツールを使用して、不審な活動やインシデントを常時監視します。 |
インシデント対応計画を策定し、セキュリティ違反が発生した場合に迅速かつ効果的に対応できるようにします。 | |
事業継続計画と災害復旧 | 事業継続計画(BCP)と災害復旧計画(DRP)を策定し、大規模なインシデントや災害から事業を守り、迅速に回復できるようにします。 |
法的および規制遵守 | 適用される法律、規制、業界標準(例:GDPR、HIPAA、PCI DSS)に準拠し、必要なコンプライアンス要件を遵守します。 |
これらの業務は、組織のセキュリティ状態を維持し、向上させるために相互に関連し合っています。効果的なセキュリティ戦略は、これらすべてが実施され、継続的に評価および改善されることで、組織を保護します。
セキュリティ管理の業務フロー
セキュリティ管理の業務は以下の流れで行うことが推奨されています。この流れは、継続的な改善サイクルであるPDCAサイクルに当てはめると下記のような流れになります。
セキュリティ人材の不足は今も深刻
世界全体で見ても、日本を含め、現状セキュリティ人材は不足しています。サイバーセキュリティの脅威は日々進化し、より複雑になっているため、専門のセキュリティ人材に対する需要は高まっているものの、その需要に対して供給が追い付いていないため、多くの国でセキュリティ人材の不足が指摘されています。
一部の国や地域ではセキュリティ教育やトレーニングプログラムが充実しており、相対的に人材不足が少ないのかもしれませんが、それでも全体としては需要が供給を上回っています。セキュリティ人材の不足は、多くの国が直面するグローバルな課題です。
日本では今もセキュリティ人材が不足している
日本におけるセキュリティ人材不足も、深刻な問題となっております。需要に対しての供給が追いついておらず、多くの企業や組織では、必要なセキュリティ人材を内部で育成したり、外部から確保したりすることに課題を感じています。
セキュリティの問題は多岐にわたり、絶えず変化するため、セキュリティ対策の全てを企業・組織内のリソースのみで完結することは非常に困難です。特に中小企業の場合、セキュリティ専門家を十分に雇用することが経済的に難しいことが多く、これが問題をさらに複雑にしています。
そのため、多くの企業や組織では、内部リソースを最大限に活用しつつ、外部の専門家やサービスプロバイダーと協力することでセキュリティ対策を強化しています。例えば、セキュリティ監視やインシデント対応を専門のサービスプロバイダーに委託する、最新のセキュリティ技術やトレンドに関する外部のトレーニングやセミナーに従業員を参加させるなどの方法があります。
このような、内部リソースと外部リソースの組み合わせによって、セキュリティ対策の全体的な強化を図ることが現実的なアプローチとされています。
企業でセキュリティ人材不足が起きる理由
企業でセキュリティ人材不足が起きる理由は主に下記3つが挙げられます。
雇用にコストを割けない
多くの企業、特に中小企業では、セキュリティ人材を雇用するための予算が限られています。セキュリティ専門家は高度なスキルを要求されるため、その給与も他の職種に比べて高額になる傾向があります。企業が適切な報酬を提供できない場合、優秀なセキュリティ人材の確保が難しくなります。また、セキュリティ投資の効果は直接的ではなく、長期的な視点で評価されることが多いため、短期的な財務成績を重視する企業では、セキュリティ人材に投資することが後回しにされがちです。
セキュリティ教育が企業の中で普及していない
セキュリティ教育が組織内で十分に行われていないことも、セキュリティ人材不足を招く要因の一つです。従業員がセキュリティの重要性を理解し、基本的なセキュリティ対策を日常的に実施する文化が確立されていなければ、専門のセキュリティ人材が不足している状況が悪化します。また、セキュリティ教育の不足では、従業員がセキュリティインシデントの原因となるリスクを意図せずに高めてしまうことにもつながります。
セキュリティ人材不足が認識されていない
一部の企業では、セキュリティ人材不足自体が適切に認識されていない可能性があります。これは、経営層がセキュリティの重要性や、適切なセキュリティ対策のためには専門的知識とスキルが必要であることを十分に理解していないことに起因することが多いです。セキュリティが技術的な側面だけでなく、ビジネスの持続可能性にとっても重要であるという認識が組織全体に浸透していなければ、人材確保のための適切な投資や施策が実施されにくくなります。
企業のセキュリティ対策にセキュリティ人材の雇用は必須か
多くの企業では、専門的なセキュリティ人材がいないと適切なセキュリティ対策を講じることが難しい状況が多いとされています。ですが、企業のセキュリティ対策において、セキュリティ人材の雇用は重要であるものの必ずしも必須とは限りません。
セキュリティ人材雇用に替わる対策
費用や時間のリソース問題で、セキュリティ人材が雇用できない場合、下記の代替案でのセキュリティ対策が推奨されます。
- 外部サービスの利用
企業はセキュリティ人材を直接雇用する代わりに、サイバーセキュリティサービスを提供する外部の専門企業に委託することができます。これにはセキュリティ監視、脅威分析、インシデント対応、コンプライアンスの確保などが含まれます。 - 自動化ツールの活用
技術の進歩により、多くのセキュリティプロセスを自動化するツールが利用可能になっています。これにより、日々のセキュリティ運用を効率化し、人事不足をある程度緩和することが可能です。 - 従業員の教育
セキュリティ人材を雇用することなく、既存の従業員にセキュリティ教育とトレーニングを提供することで、基本的なセキュリティ対策を強化することができます。従業員がセキュリティ意識を持ち、基本的なセキュリティベストプラクティスを実践することは、多くのセキュリティインシデントを防ぐのに役立ちます。
必要性の判断
企業がセキュリティ人材を雇用するかどうかは、リスクアセスメントに基づいて決定されるべきです。企業が取り扱うデータの種類、ビジネスの規模、業界の規制要件、そして現在のセキュリティ状況を考慮する必要があります。
セキュリティ人材の雇用は、特に重要な情報を扱う企業や、高度なセキュリティ対策が求められる業界でほぼ必須に近いです。しかし、すべての企業が専門のセキュリティ人材と内部に持つ必要があるわけではなく、状況に応じて最適な対策を選択することが重要です。
最短!セキュリティ人材不足の解決方法
セキュリティ人材不足は多くの企業にとって切実な問題です。しかし、長期的な採用プロセスや育成プログラムに時間をかけられない場合でもいくつかの解決方法はあります。人材採用以外のアプローチからでも、企業は必要なスキルを持つ専門家を速やかに確保し、セキュリティ体制を強化することができます。
業務委託や副業人材の活用
業務委託や副業人材の活用は、特に中小企業や即時の対応が必要なプロジェクトにとって有効なセキュリティ人材確保の方法です。これらの方法は、企業がセキュリティ人材を直接雇用することなく、必要な知識をスキルを持った専門家にタスクを依頼することを可能にします。外部のコンサルタントやサービスプロバイダー、副業を行うセキュリティ専門家など、委託先だけでも様々な選択肢があります。
セキュリティ人材の採用ポイント
業務委託や副業人材の活用においても、以下のポイントに注意して選定することが重要です。
- 専門性と経験
特定のセキュリティ分野の専門知識を実績がある人材を選ぶことが重要です。 - 信頼性と評判
信頼できる人材やサービスプロバイダーを選ぶために、過去のクライアントからのフィードバックや実績を確認してください。 - 柔軟性と対応力
組織のニーズや変化に柔軟に対応できる人材を選ぶことが望ましいです。 - コミュニケーション
クリアなコミュニケーションが可能で、組織の文化やチームと適切に連携できる人材が理想的です。
これらの選定ポイントを踏まえ、セキュリティ人材不足の問題を効率的かつ効果的に解決するための適切な人材やサービスを見つけることができます。
社内の育成環境を整える
セキュリティ人材不足を解消するもう一つの効果的な方法は、社内の育成環境を整えることです。組織内でセキュリティ意識を高め、従業員に必要なスキルと知識を提供することで、長期的なセキュリティ体制の強化につながります。社内育成は、組織にとってセキュリティ人材を持続的に確保する上で重要な戦略となります。
セキュリティ人材の育成方法
社内でセキュリティ人材を育成するには、以下の方法が有効です。
- 定期的なトレーニングと教育
セキュリティ関連のトレーニングプログラムを定期的に実施し、従業員が最新のセキュリティ知識とスキルを習得できるようにします。オンラインコースやワークショップ、セミナーなど、様々な形式で知識を提供します。
- 実践的な経験
シミュレーションや実際のプロジェクトへの参加を通じて、従業員がセキュリティスキルを実践的に学べる環境を提供します。これにより、理論だけでなく実際の状況での対応能力も身に付けます。
- メンターシッププログラム
経験豊富なセキュリティ専門家がメンターとなり、若手やセキュリティスキルを伸ばしたい従業員の成長をサポートします。 - キャリアパスの提供
セキュリティ分野でのキャリアパスを明確にし、従業員がスキルアップとキャリアアップの両方を目指せるようにします。 - 学習リソースの提供
書籍、オンラインリソース、業界誌など、セキュリティ学習に役立つ資料を提供し、自主的な学習を促します。
これらの育成方法を組み合わせることで、社内にセキュリティ文化を根付かせ、組織全体のセキュリティ対策のレベルを向上させることができます。
セキュリティ対策ツールを導入
セキュリティ人材不足に直面している企業にとって、セキュリティ対策ツールの導入は、リスクを管理し防御力を強化する効果的な手段です。最先端のセキュリティツールは、自動化された脅威検出、分析、対応機能を提供し、人材不足を補いながらセキュリティの効率性を向上させます。
セキュリティ対策を強化するために導入を検討すべき主要なツールのカテゴリは下記になります。
- 侵入検知システム (IDS) と侵入防止システム (IPS)
ネットワークトラフィックを監視し、異常なパターンや攻撃の兆候を検出するシステムです。IPSは検出した脅威に自動的に対応する機能を備えています。 - エンドポイント保護プラットフォーム (EPP)
マルウェアからデバイスを保護し、不審な行動を検出するためのソフトウェアです。最新のEPPは、機械学習を利用して新たな脅威を特定します。
- セキュリティ情報およびイベント管理 (SIEM)
セキュリティ関連のデータをリアルタイムで収集・分析し、インシデント対応を支援するシステムです。 - 脆弱性管理ツール
ソフトウェアやシステムの脆弱性を定期的にスキャンし、修正が必要な問題を報告するツールです。
- クラウドベースのセキュリティソリューション
クラウドサービスを利用してセキュリティを強化し、リソースの制約がある企業でもスケーラブルなセキュリティ対策を可能にします。
これらのツールを適切に組み合わせて使用することで、企業はセキュリティ体制を大幅に強化し、人材不足によるリスクを軽減できます。しかし、ツール導入に際しては、それらが企業の既存のセキュリティ環境やポリシーと適切に統合されるよう注意が必要です。
セキュリティ人材の雇用が難しくても対策は可能!人材コスト削減のポイントを押さえよう
セキュリティ人材不足は多くの企業が直面する課題ですが、それでも効果的なセキュリティ対策を実施する方法は存在します。企業は、外部の専門家やサービスプロバイダーを活用することで、高い人材コストをかけずに必要なセキュリティ知識とスキルを得ることができます。また、セキュリティ対策ツールの導入により、自動化された監視や対応が可能となり、限られたリソースでも十分なセキュリティ体制の維持が可能になります。さらに、社内でのセキュリティ教育と育成プログラムの強化によって、従業員自身がセキュリティリスクに対応できる能力を高めることも重要です。これらのアプローチにより、企業はセキュリティ人材の不足を補い、コスト効率よくセキュリティ対策を実施することが可能となります。