情報処理安全確保支援士の資格は、現代のデジタル化が進む社会においてますます重要性を増しています。その一方で、「意味がない」資格と言われてしまうことも事実です。このコラムでは、「なぜ情報処理安全確保支援士が意味がないと言われるのか」「実際どのような場面でメリットがあるのか」について解説していきます。
目次
情報処理安全確保支援士の意味と価値
情報処理安全確保支援士の資格が持つ意味と価値は、「IT業界や情報セキュリティ分野における専門知識とスキルを習得できる点」と「信頼性のあるセキュリティ専門家としてのキャリアを築くために不可欠な点」です。
なぜ情報処理安全確保支援士を選ぶべきなのか
情報処理安全確保支援士を選ぶべき理由は、おもに下記の2つにあります。
IT業界ではじめての登録制士業資格
情報処理安全確保支援士は、日本において初めての登録制度を持つ「士業資格」の一つです。これは、資格取得者に対して一定のスキルと倫理観を要求し、信頼性と専門性を保証するものです。この資格を取得することで、専門家としての認知度が高まり、IT業界でのキャリアの幅が広がります。
他の情報資格との違い
情報処理安全確保支援士は、他の資格と比べてより高度な技術スキルを持つセキュリティプロフェッショナルとしての地位を築くための資格です。また、情報処理安全確保支援士は日本国内において特に評価されており、国内のセキュリティニーズに合わせた専門性を提供します。情報処理安全確保支援士と、他の情報セキュリティ関連の資格との違いを具体的に見てみましょう。以下にて代表的な関連資格と、その相違点を解説していきます。
- CISSP (Certified Information Systems Security Professional)
CISSPは国際的な情報セキュリティ資格で、幅広いセキュリティトピックスに関する知識を要求します。情報処理安全確保支援士はCISSPに比べて技術的な側面に重点を置いており、実務経験の要件も異なります。CISSPは国際的な認知度が高く、グローバルなキャリアに向いています。
- CISM (Certified Information Security Manager)
CISMは情報セキュリティマネジメントに焦点を当てた資格で、組織内でのセキュリティ戦略やポリシーの策定、リスク管理などに関する知識が求められます。情報処理安全確保支援士は技術的なスキルに重点を置き、セキュリティの実装や監視に特化しています。 - CompTIA Security+
CompTIA Security+はセキュリティの基本的な知識を評価する資格で、情報処理安全確保支援士に比べて入門レベルです。情報処理安全確保支援士はより高度な技術的スキルを要求し、セキュリティの専門性にフォーカスしています。
講習を通じた知識習得の意味
情報処理安全確保支援士の資格は、登録制であるため、資格を取得するには特定の講習を受講する必要があります。
この特定講習では、最新のセキュリティトレンドや対策方法について学び、専門的な知識を習得します。これにより、組織やクライアントのセキュリティを最新の脅威から守る能力が向上します。また、セキュリティの実務経験が限られている場合でも、講習を通じて実践的なスキルを養う機会を提供し、問題解決力を高めます。さらに、業界標準のベストプラクティスを学び、セキュリティプロジェクトや監査において、業界で認められた手法と原則を遵守できるようになります。講習を受講することで、セキュリティコミュニティとのつながりも築き、情報交換や経験共有が可能になります。
これらの要素は、資格取得の副次的な価値となり、セキュリティ分野での専門性と信頼性を高めます。
情報処理安全確保支援士と中小企業診断士のダブルライセンス
情報処理安全確保支援士を取得する際に、中小企業診断士の資格も検討することが勧められます。
中小企業診断士は、中小企業の経営や戦略に関する専門知識を持つ資格です。情報処理安全確保支援士とのダブルライセンスを持つことで、経営環境を理解し、ビジネスニーズに合致したセキュリティ対策を提案できます。
中小企業診断士の知識と情報処理安全確保支援士のセキュリティスキルを組み合わせることで、中小企業におけるセキュリティ課題を総合的に解決できる能力が高まります。経営層からの信頼を得やすく、セキュリティ対策の効果的な導入やリスク管理を支援できるため、ダブルライセンス保持者は市場価値が高いと言えます。
情報処理安全確保支援士の年収
情報処理安全確保支援士の年収は、経験やスキル、勤務地、雇用主によって異なりますが、一般的には高収入の資格とされています。初年度の年収は約500万円から800万円程度が一般的で、経験を積むと年収がさらに増加する傾向があります。また、特にセキュリティエンジニアやセキュリティコンサルタントとして活躍する場合、年収が1000万円以上に達することもあります。
セキュリティエンジニアの年収については下記コラムで詳細を解説しています。
情報処理安全確保支援士の活躍分野
情報処理安全確保支援士の活躍分野は多岐にわたりますが、代表的な3つの分野は以下の通りです。
セキュリティエンジニア
情報セキュリティの専門家として、システムやネットワークの脆弱性評価やセキュリティ対策の設計・実施を行います。セキュリティインシデントの対応やセキュリティポリシーの策定も担当します。
セキュリティエンジニアの仕事内容について、下記のコラムで詳細をご紹介しています。
セキュリティコンサルタント
企業や組織に対してセキュリティ戦略のコンサルティングを行い、リスク評価やセキュリティ対策のアドバイスを提供します。セキュリティポリシーの策定や教育訓練の実施も担当します。
監査業務
情報処理安全確保支援士は情報セキュリティの監査業務も行います。企業や機関のセキュリティ対策が適切に実施されているかを評価し、法令や規制への準拠を確認します。
これらの分野で情報処理安全確保支援士は、情報セキュリティの専門家としての役割を果たし、セキュリティの向上に貢献します。
情報処理安全確保支援士はなぜ意味がない?
情報処理安全確保支援士は一定の価値を持つ一方で、その取得が必須でないとされる理由にはいくつかの要因があります。以下に、情報処理安全確保支援士が意味ないといわれる主な理由を解説します。
情報処理安全確保支援士の取得は必須ではない
情報処理安全確保支援士は、IT業界の必須資格ではなく、多くの職種や業界でセキュリティ関連の仕事に就くために必要なわけではありません。そのため、他の資格やスキルを持つことで同様の職に就くことも可能です。
資格の認知度の低さと仕事内容の不明確さ
情報処理安全確保支援士の資格は一般的な認知度が低く、多くの人々にはあまり知られていないことがあります。また、資格の名前からはその具体的な仕事内容が明確でないため、雇用主やクライアントからの需要が限られることがあります。
資格維持のために高額費用がかかる
情報処理安全確保支援士の資格を維持するためには、定期的な更新や研修が必要です。これに伴う費用が高額であるため、資格を維持し続けることが経済的に負担となることがあります。
情報処理安全確保支援士は独占業務を持っていない
情報処理安全確保支援士は、特定の業務を独占する資格ではありません。そのため、他の資格やスキルを持つ人々と競争することが避けられず、需要の高まりが限定的であることが挙げられます。
以上の理由から、情報処理安全確保支援士はあくまで個々のキャリアパスや職業選択において必ずしも必要ではないとされています。資格取得を検討する際には、自信のキャリア目標や職業環境に合った選択を兼用することが重要です。
情報処理安全確保支援士の将来性
情報処理安全確保支援士の資格は、将来的に高まる需要と多くの職業機会を提供します。以下に、情報処理安全確保支援士の将来性について詳しく説明します。
情報処理安全確保支援士の需要の高まり
情報処理安全確保支援士の需要が高まっています。デジタル技術の進化と共に、情報セキュリティの重要性が増し、サイバー攻撃の脅威も増加。組織や企業はセキュリティを強化し、情報処理安全確保支援士の専門知識が不可欠と認識されています。国家試験の一部であるため、その信頼性と専門性が高く評価され、セキュリティ関連の職で競争優位性を持ちます。情報セキュリティの分野は今後も拡大が見込まれ、情報処理安全確保支援士は有望なキャリアの一つとして注目されています。
情報処理安全確保支援士の将来性がある理由
情報処理安全確保支援士は将来性が高い資格です。情報セキュリティの重要性が高まり、信頼性のあるセキュリティ専門家が必要とされています。資格は国家試験の一部であり、その信頼性が公的に認められています。セキュリティ関連の職は需要が増加し、情報処理安全確保支援士は競争優位性を持ち、キャリアの発展が期待されます。セキュリティの重要性が今後も増す中で、情報処理安全確保支援士の需要は高まり、資格取得者には充実したキャリアパスが見込まれます。
情報処理安全確保支援士の3大メリット
情報処理安全確保支援士の取得の主なメリットは下記の3つになります。
1.情報処理安全確保支援士の名称独占のアピール力がある
情報処理安全確保支援士資格は、その名称独占が大きなアピールポイントです。この資格を取得することで、自身がセキュリティ分野の専門家であることを証明できます。他の資格や証明書では得られない、独自の専門性を持つことができ、求人市場での競争力を高めます。
2.国家試験の一部が免除される
情報処理安全確保支援士資格を取得する際、下記の国家試験を含む関連試験の一部が免除されます。
- 中小企業診断士試験
- 弁理士試験
- 技術士試験
- ITコーディネーター(ITC)試験
※最新の情報、詳細は、各試験のホームページ等でご確認ください。
これは、情報処理安全確保支援士試験が高度なセキュリティ知識やスキルを要求するため、関連する他の試験に合格している場合、一部の試験科目が免除され、資格取得プロセスが簡略化されることを意味します。
このメリットは、資格取得の負担を軽減し、資格取得をより効率的に進めることができる点で重要です。また、他の関連資格との組み合わせによって、セキュリティ分野での専門知識を幅広く獲得できる可能性も高まります。
3.IT化による需要の拡大で将来性もあり
情報セキュリティの重要性が増す中、情報処理安全確保支援士の需要は拡大しています。IT化が進展する社会では、情報セキュリティのスペシャリストがますます必要とされ、その需要は今後も高まり続けるでしょう。情報処理安全確保支援士資格取得者は、将来性のあるキャリアパスを築くことができます。
情報処理安全確保支援士試験の試験概要・難易度
情報処理安全確保支援士試験の試験概要と難易度について、以下の3つのポイントを紹介します。
情報処理安全確保支援士試験はなぜ非常に難しい?
情報処理安全確保支援士試験は非常に難易度の高い試験とされています。その理由として、以下の要因が挙げられます。
1.高度なセキュリティ知識が要求されるから
この試験は、情報セキュリティの専門家としての資格であり、高度なセキュリティ知識とスキルが必要です。受験者はセキュリティに関する広範な知識を持ち、セキュリティの最新トレンドや脅威について深い理解を持つ必要があります。
2.試験科目の範囲が広いから
試験は多岐にわたる試験科目から構成されており、暗号技術、セキュリティポリシー、セキュリティ監査、ネットワークセキュリティ、リスク管理など、情報セキュリティのさまざまな側面を網羅しています。受験者はこれらの分野について広範な知識を持つ必要があります。
3.合格基準が厳格化されたから
情報処理安全確保支援士試験は高い合格基準を設けており、合格点の取得が難しいため、合格率は比較的低い水準にあります。受験者は高いスコアを獲得する必要があり、試験の難易度はそれに見合ったものとなっています。
このような要因から、情報処理安全確保支援士試験はセキュリティ分野での高度な専門知識とスキルを持つことを証明する難しい試験であり、合格には十分な準備と専念が必要です。
合格点と合格率の厳しさ
情報処理安全確保支援士試験の合格率は比較的低く、合格点の取得が難しい特徴があります。
合格点は満点の60%です。 午前I試験、午前Ⅱ試験、午後試験すべてで60%以上の得点を獲得する必要があります。
また、直近の情報処理安全確保支援士の合格率の推移は下記になります。
- 令和5年度秋期:21.9%
- 令和5年度春期:19.7%
- 令和4年度秋期:21.1%
- 令和4年度春期:19.2%
- 令和3年度秋期:20.1%
- 令和3年度春期:21.2%
- 令和2年度10月:19.4%
- 令和元年度秋期:19.4%
参照情報処理技術者試験・情報処理安全確保支援士試験 統計資料/独立行政法人情報処理推進機構
平均合格率が20%前後となっており、これはIT関連資格のトップレベルの難易度と言えます。この試験は高度な専門知識を持つセキュリティプロフェッショナルを養成することを目的としており、そのためには高い合格基準が設けられています。
試験の難易度を示す指標として、合格率や合格点が厳格に設定され、合格者はセキュリティ分野での高い専門性を証明することが求められます。
情報処理安全確保支援士の試験構造や問題の種類
情報処理安全確保支援士試験は、主に以下のような試験構造と問題の種類から構成されています。
- 午前I試験
試験時間 | 9:30~10:20(50分) |
出題形式 | 多肢選択式(四肢択一) |
出題数・解答数 | 出題数:30問 解答数:30問 |
ここではテクノロジ系、マネジメント系、ストラテジ系の3分野で試験問題が展開されています。経営戦略や企業活動やプロジェクトマネジメントなどについて総合的な知識が問われ、情報セキュリティに限定しない、広範囲な問題が出題されるのが特徴です。
- 午前Ⅱ試験
試験時間 | 10:50~11:30(40分) |
出題形式 | 多肢選択式(四肢択一) |
出題数・解答数 | 出題数:25問 解答数:25問 |
情報セキュリティシステムの開発や、情報処理システム等、専門業務におけるセキュリティ管理の専門的な知識が問われます。情報セキュリティおよびコンピュータネットワークに関する領域がメインですが、関連領域に該当するデータベース、開発技術、ITサービスマネジメントも試験範囲に含まれます。
- 午後試験
試験時間 | 12:30~15:00(150分) |
出題形式 | 記述式 |
出題数・解答数 | 出題数:4問 解答数:2問 |
情報セキュリティの技術面および運用・管理面を含む総合的な範囲で出題されます。
午後試験は複数の選択肢からなる問題と論文問題(レポート課題)で構成されており、論文問題では実務的なセキュリティ関連の課題に対する解決策や提案を記述する必要があります。午後試験では、情報処理安全確保支援士としての実践的な知識とスキルを評価します。
情報処理安全確保支援士試験は、セキュリティ分野での高度な専門知識とスキルを持つことを証明するための試験であり、合格には十分な準備と努力が必要です。
参照:情報処理安全確保支援士試験/独立行政法人情報処理推進機構
結論:情報処理安全確保支援士は必須資格ではないが、取得には意味がある
要約すると、情報処理安全確保支援士の取得は必須ではないものの、多くの価値があると言えます。
セキュリティ分野の専門知識とスキルが習得できる
情報処理安全確保支援士試験を受験し、合格することで、セキュリティに関する幅広い知識とスキルを習得できます。これは、情報セキュリティの専門家としての基盤を築くために重要です。
セキュリティ専門家として信頼性が増す
情報処理安全確保支援士の資格は、企業や組織におけるセキュリティ対策の専門家としての信頼性を高める要素となります。この資格を持つことで、セキュリティに関する専門家としての地位を築くことができます。
キャリアの幅が広がり、昇給に繋がる
情報処理安全確保支援士の資格を持つことで、セキュリティ分野におけるキャリアの選択肢が広がります。また、資格取得者は通常、昇給やキャリアの進展に対して優遇される傾向があります。
インフラとデータのセキュリティ向上に貢献できる
情報処理安全確保支援士としての知識とスキルを活用し、組織や企業のインフラとデータのセキュリティ向上に貢献できます。セキュリティの強化は、情報漏洩やサイバー攻撃から組織を守る重要な役割を果たします。
まとめ: 情報処理安全確保支援士の意味はある!実用性と将来性のある資格で市場価値を上げましょう
実情として、情報処理安全確保支援士は独占業務がないことや維持費が高額なことから「意味がない」資格といわれることもあります。しかし、この資格には多くの実用性と将来性があります。セキュリティ分野での専門知識やスキルの習得、セキュリティ専門家としての信頼性向上、キャリアの多様性と昇給の可能性、そしてインフラとデータのセキュリティ向上に貢献できることを考えると、情報処理安全確保支援士の取得には意義があると言えるでしょう。市場価値を高め、将来のキャリアにプラスの影響を与えるために、この資格に取り組むことは価値があることを覚えておきましょう。